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九州で、ぬるま湯の温泉が注目されている。長時間の入浴で温泉の効能を十分味わえる上、美容や健康にもいいとしてファンを増やしているという。ただ、温泉といえばやっぱり「熱いお湯」なのでは? 寒さが身にしみる日々が続くなか、湯船につかってみると……。(河村能宏) お湯の温度は36度。予想通り、湯船の中は、なま暖かい。ただ、体への負担は少なく感じられ、かなりの時間、入浴できそうだ。 佐賀市北部の嘉瀬川中流域の渓谷にある「古湯・熊の川温泉」。老舗(しに・せ)旅館「鶴霊泉(かく・れい・せん)」で入浴してみた。「最初は寒いが、40分ほどつかってみんね。気持ちいいよ」。小池英俊社長(59)の助言を信じた。「ぬる湯」と称して、ぬるま湯の魅力をアピールしようと最初に提唱した一人だ。 入浴してから40分。体がぽかぽかしてきた。体の緊張がほぐれ、心地よい湯上がり。宿の女将(お・かみ)は「帰りの車で眠らないよう、運転には気を付けてくださいね」。 山間部の同温泉は現在、20近い旅館やホテルがある。源泉の温度は32・9度~40度。泉質は放射能泉で、特に糖尿病や痛風に効くとされる。 ここでは2年ほど前から、ぬる湯を売り込み始めた。きっかけは、00年に35万人だった年間の観光客数が05年には22万人まで落ち込んだこと。以来、独自の魅力ある温泉地作りを模索してきた。 ぬるま湯だと長時間の入浴が可能で、温泉の効能が十分味わえるほか、副交感神経が働き、リラックス効果もあるという。大正期の歌人・斎藤茂吉もスペイン風邪の療養のため、古湯に3週間滞在。ぬる湯を堪能している。 ぬるま湯をうたえば、客が離れはしないか、との不安も当初はあったが、小池社長は「観光客にも魅力は伝わる。従来の温泉のイメージを覆す」と意気込む。 ぬる湯の売り込みは08年に入り活発化。9月末には小池社長ら地元の温泉旅館経営者らが中心となって「ぬる湯サミット」なるものを開いた。山鹿温泉(熊本)や壁湯(大分)など、源泉温度の低い温泉地4カ所の旅館関係者や地元の温泉愛好家ら約300人が参加。湯船につかりながらぬる湯の魅力を語り合うイベントやシンポジウムがあった。 「全国初の、ぬる湯をテーマにしたイベント」と小池社長。全国4500の温泉を巡り、温泉に詳しい札幌国際大学の松田忠徳教授がシンポの基調講演で次のように述べた。 「温泉は、ひたすらつかることの贅沢(ぜい・たく)さを堪能する場。その基本が、古湯・熊の川にある。イライラしがちな現代人に求められるのは、ゆったりとつかる余裕。時代はぬる湯に追い風です」 環境省によると、国内の源泉数は07年3月末時点で2万8154カ所(未利用源泉数も含む)。うち、源泉の温度が25~41度と低いところは6952カ所あり、全体の約25%を占める。統計の割には、ぬるま湯をうたう温泉地が少ない印象だが、それは大半が41~42度まで加温されているためだという。 一方、日本温泉総合研究所(東京)は「ぬるま湯の温泉は探せばある。ただ、それが宣伝材料になる認識がないため、表に出なかっただけ」。 ただ、近年は半身浴ブームなどで温泉の楽しみ方にも幅が広がり、「各温泉がそれぞれの持ち味をアピールできる時代になった。ぬるま湯を前面にうたうところは今後増えるのでは」という。 観光専門のシンクタンク「ツーリズム・マーケティング研究所」(同)は、白骨温泉(長野)に端を発した04年の温泉偽装問題で「ホンモノ志向」が高まったと指摘。「ぬるくても加温しない『ホンモノ感』が見直される機運はある」と言う。 九州では、人吉温泉(熊本県人吉市)や長湯温泉(大分県竹田市)などにぬるま湯がある。利用者らの動きとしては、インターネットのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で、ぬるま湯の温泉愛好家が集まったコミュニティーが作られ、情報交換が活発だ。 山鹿温泉観光協会の事務局長で老舗(しに・せ)旅館「寿三」の松岡靖人社長は「昔は、ぬるいと『風邪をひく』などの苦情があったが、近年はぬる湯を求めて訪ねてくる人もいる。変化の波を感じる」と話す。 温泉と美容を研究する温泉研究家の石井宏子さん=東京都=にぬるま湯の温泉の入浴方法を聞いた。 泉質や温度の違いで入浴時間は異なるが、ポイントは汗ばみ始めたぐらいに湯船を出ること。汗が出るまで入っても疲れるだけだ。 そばに41~42度の熱い浴槽があれば、「熱い→ぬるい」の順で交互に入るのも効果的だ。新陳代謝がよくなり、ダイエット効果が高まるという。ただ、入浴回数は1日3回まで。それ以上は体に負担だという。 石井さんは「ぬるま湯の温泉は源泉が加温されない場合が多く、温泉成分が揮発しにくい。温泉の恵そのままをいただけます」と話す。 【写真】ぬるま湯だと長時間入れるため、湯船の中での会話も弾む=佐賀市富士町の鶴霊泉
by mo_gu_sa
| 2009-01-13 15:00
| 温泉一般
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