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知って楽しむ温泉学:3(竹下教授)

http://www.asahi.com/edu/university/kougi/TKY200802220121.html

 成分、伝統、そして景観。特徴を知ることこそ、保護推進の力になります。

 自然の恵みを肌でじかに感じる幸せ。そんな温泉のだいご味をいかに広げて深めるか。いただいた宿題への答案から、色んなこつがあるのがわかりました。竹下教授は眼鏡をかけたまま湯に入ることも多いそうです。掲示や浴槽の状況を見て特徴を知るほど、保護を考えるのに力が入るのだそうです。竹下教授が選んだ答案2点を講評とともに紹介します。

    *

 【宿題】温泉を楽しむこつ、印象深い体験(場所も)はどんなものですか。愛着のある温泉をどうやって次世代に残せばいいでしょうか。

 ○露天からの景色、環境考える契機に

 安藤知明さん(66)=パート、大阪府豊中市

 私は露天風呂の温泉に目がない。雄大な景色や夜空の星を眺めながらの入浴は心が和む。全国に散らばる有名な露天風呂の温泉を制覇したいと思う。

 温泉宿に早めに行き、夕食前にゆったりと温泉を楽しむ。温泉好きが全国から集まることも多いから、湯船であいさつを交わすだけではもったいない。よかった温泉やうまかったお土産の情報も交換する。

 大分県竹田市にある久住(くじゅう)高原の露天風呂から眺める景色は雄大だった。目の前に草原が広がり、その先に阿蘇山が姿を見せている。見事な借景だった。

 夜は、見上げると満天の星。ロマンチックな気分になり、体だけでなく心も癒やされる。入湯する季節や時間によって違った「顔」があるのもうれしい。北海道から来たという人もほめることしきりだった。

 露天風呂に行くと、景観まで含めて温泉のだいご味だと感じる。温泉の保護は景観の保護につながり、その逆も言える。そういう考えが広まれば、環境保全の動きや、それにかかわる人のすそ野が広がるのではないか。

 ○「地元の誇り」、由来語り継ごう

 柳澤美月さん(72)=主婦、大阪府吹田市

 温泉の楽しみ方の一つは、温泉にまつわる由来や伝統を知ることだ。

 3千年の歴史を誇る松山市の道後温泉の始まりはこう伝えられている。「その昔、脚を痛めたシラサギが岩間から噴出する温泉を見つけ、脚を浸すと傷が癒えて元気に飛び立った。不思議に思った村人が入浴してみると、疲れがとれて病気も全快した」

 JR松山駅前から、伊予鉄道の「坊っちゃん列車」に乗ると、汽笛や車掌らの服装に昔の様子が再現されていた。約20分かけて道後温泉駅に向かう雰囲気は格別だった。

 1894(明治27)年に建てられた道後温泉本館は、国の重要文化財に指定されている。夏目漱石は英語教師としてその翌年に旧制松山中に赴任。正岡子規、高浜虚子とともに道後温泉本館を訪れていたという。現在は3階に漱石にちなんだ「坊っちゃんの間」があり、文豪をしのぶことができた。

 温泉の由来を、地元の子どもたちや入湯客に語り継ぐ。そうすれば誇りを抱くようになり、温泉を守る動きが広がってくるだろう。

 ◇講評

 《安藤さん》絶景の中で温泉につかれる幸せ。残したいですね。私も同感です。近年、露天温泉が集客力につながると言われ、多くの宿がつくり始めました。答案にあるように景観を含めた温泉保護、または温泉を含めた景観保護を進めるチャンスです。地元の市町村や観光協会が「お勧め景観地」に指定し、ブランドイメージを高めるのもいい。そうなれば特定の宿や個人に頼りきらない保護の動きがつくれるでしょう。

 《柳澤さん》上手な楽しみ方ですね。温泉がいかに風土や文化に根づいているかを知ると豊かな気持ちになれます。私も今月初め、道後温泉本館に行き、伝統をうまく客に伝えていると感じました。愛媛県は03年、公衆浴場での塩素消毒を条例で定めました。レジオネラ菌対策です。源泉かけ流しの同本館も対象ですが、歴史をみれば疑問が残ります。地元でも議論があるようです。答案にあるように、伝統を知ればその揺らぎに親身になれるのです。

 (関西大教授 竹下賢)

 ◆先生に質問!

 《記者からの質問》

 千メートル以上の大深度掘削が増加し、温泉資源に及ぼす影響を心配する声があります。どうすべきだと思いますか。

 《竹下教授の答え》

 深層の温泉水は循環する速度が遅い。大深度掘削の影響が表れる順でいうと、湧出(ゆうしゅつ)量の変化はわりと短期間で出ますが、成分濃度と温度の変化はゆっくり進行します。まず、湧出量や成分などの測定をせめて5年ごとにやり、その結果に基づいて採取できる湯量の上限を見直すことが必要です。最新の測定結果の提出を受けて都道府県が温泉事業者らを指導し、くみ上げを制限をできるよう温泉法を整備すべきだと思います。

 県独自に指導要綱などでくみ上げ湯量を制限している例もありますが、法律の支えが必要です。そうなれば要綱などの科学的根拠を争う訴訟も減り、環境資源として温泉を保護できるでしょう。

 ■もっと知りたい人へ

 「温泉必携」(日本温泉協会、温泉研究会編著、日本温泉協会)▽「温泉で健康になる」(飯島裕一著、岩波書店)▽「温泉学入門」(日本温泉科学会編著、コロナ社)▽「温泉科学の新展開」(同学会、大沢信二編著、ナカニシヤ出版)▽「生きている温泉とは何か」(大河内正一著、くまざき出版社)▽「温泉の法社会学」(北條浩著、御茶の水書房)
by mo_gu_sa | 2008-02-23 12:00 | 温泉一般


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