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知って楽しむ温泉学:1(竹下教授)

http://www.asahi.com/edu/university/kougi/TKY200802090053.html

 掲示内容は、まだ不十分。浴槽ごとの表示がほしいし分析の更新が10年では長い。

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 温泉は副作用の少ない治療法。効能の評価を進めてほしい。


 疲れやストレスを吹っ飛ばしたい。そんなとき、日本では温泉に向かう人が多いでしょう。その割に「温泉とはなにか」を正確に知っている人は少ないのでは? きちんと知ればもっと楽しめるのに、もったいない。温泉学会=キーワード(1)=会長の竹下賢・関西大教授(61)はそう言います。


 新鮮な湯があふれ、筋肉痛や冷え症に効く。温泉を、こうイメージする人が多いでしょう。でも、温泉法が定める温泉の条件は違うんです。

 (1)25度以上の温度(2)硫黄やラドンなど18種の成分が一つでも一定以上(3)成分の総量が一定以上――いずれかの条件をクリアした湯です。25度以上あれば成分に関係なく「天然温泉」。あとは、温泉法の施行規則に従って、泉質や成分を脱衣場などに掲示すればよかった。

 だが04年、入湯客に知らせずに入浴剤を使ったり水道水を加熱したりしていた不当表示=キーワード(2)=が各地で発覚。温泉法施行規則が改正され、05年5月から加水や加温、循環装置や入浴剤の使用などについても掲示が義務づけられました。昨年10月に改正温泉法が施行され、政令に10年ごとの掲示内容の更新も盛り込まれました。ずいぶんの進歩です。

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 でも、まだ不十分です。まず、源泉だけでなく、浴槽ごとの表示がほしい。加水や加温、循環の状況は浴槽ごとに違うことがあります。それに、掲示は義務づけられていませんが、湧出(ゆうしゅつ)量と給湯量、加水する場合の割合も大切な情報です。分析の更新時期の10年も長い。温泉は生き物、5年ごとの分析が必要です。

 いま、メタホウ酸という温泉成分の一つが、業界で話題になっています。ホウ素の化合物ですが、01年に水質汚濁防止法が改正され、排水中に含まれるホウ素が基準を超えると、罰せられることになったのです。温泉旅館への適用は10年6月まで猶予され、緩めの暫定基準が設けられてはいますが。

 メタホウ酸は、切り傷にいいとされてきました。ところが、健康被害の原因となると指摘され、水濁法で規制対象に加えられたのです。

 加水も循環もない「源泉かけ流し」の湯ではホウ素の基準を超えやすく、数百万円から数千万円といわれる処理施設が必要となります。一方、循環式で湯を再利用し、細菌対策で塩素を使う温泉は、基準にかかりにくい。古くからの温泉地を揺るがす問題です。ホウ素の影響をもっと慎重に見極めるべきだと思います。

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 逆に積極的に進めてほしいのは効能への評価。ドイツなどが温泉に医療保険を適用しているのに比べ、日本は効能を認めているとはいえません。薬に比べて効能との因果関係を証明しにくく、各泉質の効能を裏づける論文やデータが少ないからのようです。

 旧環境庁が82年に設けた「温泉の適応症決定基準」は四半世紀変わっていません。環境省は06、07年度、適応症と入浴を避けた方がいい禁忌症について今の基準が妥当か、温泉医療などを研究する学会に調査を頼みましたが、まだ結論は出ていません。

 禁忌症はあるにしても、温泉は副作用の少ない温和な治療です。科学的にも見直し、保険適用の流れに話が進んでほしいと思っています。

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 竹下賢(たけした・けん) 関西大法科大学院教授。専門は法哲学。環境法関連の授業も担当する。温泉を環境資源として位置づけるべきだと考え、温泉法改正の提言を続ける。昨年9月、温泉学会会長に就任。温泉めぐりは学生時代に始め、入った温泉は九州から北海道まで数多い。

 ◆キーワード
 (1)温泉学会 レジオネラ菌による事故の再発防止と、温泉の正確な情報開示を訴え、03年9月に設立した。会員は約350人。観光学や理学の研究者のほか旅館経営者や愛好家、作家らが参加する。温泉地で年2回の学会を催し、次回は3月1、2日、新潟県の松之山温泉で開く。

 (2)不当表示 全国の温泉旅館や公衆温泉で04年夏、水道水の使用や、無許可の掘削、入浴剤の混入が次々に発覚。白骨(長野)、伊香保(群馬)、箱根(神奈川)、芦原(福井)、有馬(兵庫)など伝統ある温泉地の例もあった。その反動で信頼回復に向けた努力が加速。別府温泉(大分)は愛好家の評価も加えたカルテを導入し、十津川温泉郷(奈良)は浴槽ごとに湯に含まれる源泉の割合を掲示し始めた。
by mo_gu_sa | 2008-02-09 11:00 | 温泉一般


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